漫画『さよなら絵梨』【レビュー・感想・評価】(ネタバレ有り)

概要

「ジャンプ+」にて2022年4月11日から掲載された読み切り短編作品。作者は「チェーンソーマン」などで知られる藤本タツキ。

あらすじ

 伊藤優太は12歳の誕生日に買ってもらったスマートホンで母親を撮影することになった。それは、余命宣告をされた母本人から頼まれたものだった。

レビュー

「要するに、ひとつまみのファンタジー」

 この物語は、"ひとつまみのファンタジー"で構成されている。

 母親を題材にした映画「デッドエクスプローションマザー」では、病院を爆破させることがファンタジー要素になっている。父親は、優太が幼い頃からの癖で、映画のなかで爆発させたがることを言及している。
 映画の中では、本来持つ厳しい姿を切り取り、良い部分だけを繋げることで優しい母親として描いている。それはファンタジーではなく、母親のなかの偽らざる一面。それが優太の母親に対する思いの表れだった。

 つづいて絵梨を題材にした映画。ヒロインの絵梨が実は吸血鬼だったという設定をファンタジー要素としてくわえる。
 この映画も前作と同じで、主役となる絵梨の良い部分のみで構成されている。どちらも撮られる人間の意思を優太が尊重して作り上げた作品だった。

 しかし、絵梨は本物の吸血鬼だった。いきなりトンデモ展開になり、物語は加速する。年を重ねた優太と、あの時と何も変わらない絵梨。これが映画なら、あまりにもチープすぎる。
 絵梨が本物の吸血鬼という事実を告白されたことで、あの映画は不完全な作品になってしまった。ファンタジー要素が失われたからだ。

 優太は映画があれば何度でも思い出せるという絵梨の言葉に同意したうえで、ある結論にたどり着く。それは、絵梨の哀しき無限ループを止めると同時に、映画から失われたファンタジーのひとつまみだった。

感想

・優太の"優しさ"
 本作は全編を通して優太の優しさを描いている。
 現実とは異なる映画内の優しい母親。現実とは異なる映画内の絵梨の印象。そして、絵梨の吸血鬼としての永久ループをも止めた。
 奇をてらわずシンプルに性格を表した主人公の名前が素晴らしい。

・唸る構成力
 伏線の張り方と回収、そしてオチの落差が絶妙。前回の読切作品である「ルックバック」もそうだが、漫画ならではの演出も光っている。漫画は絵を楽しむもの。だからこそ同じカットやシーンを繰り返す演出は強烈に訴えかけてくるものがある。
 序盤で印象的なシーンをオチに使うのは、読切だとより分かりやすい。映像とリアルが何度も何度も行き来する不思議な感覚も、没入感を高めてくれる大きな要素になった。

評価

☆☆☆☆★

漫画

Posted by しよう