『魔界塔士Sa・Ga(サガ)』【感想・レビュー】~ゲームノ読ミ物(9)~

2024年7月11日

 『魔界塔士Sa・Ga』とは、「怒髪"天を突く"物語」である。
 今もなお新作が作り続けられているサガシリーズの産声はどのように上がったのか。
 独自の見解で読み解いていきたい。

シンプルかつ大胆なシステム

 ゲームを始める際に、まず主人公を選択する。普通の発想であれば主人公はにんげんかエスパーのどちらかにする。しかし、本作における"かみ"は、その制限を加えず、モンスターも選択可能になっている。
 システムの大半が使えなくなっても一向に構わない。この度量と豪快さが、サガシリーズのイメージを決めたといっても過言ではない。

 育成システムを種族で別にしたのも画期的である。金で強化するにんげん、戦闘で強化するエスパー、敵の肉を食べることで変身するモンスター。
 誰もやらないような面倒なアイデアであえて勝負したのが、『魔界塔士Sa・Ga』らしさなのだ。

 実は育成がもっとも大変なのは"にんげん"である。お金を貯め、店でアイテムを購入し、使用することでようやく成長できる。しかも、成長度合いが悪く、何十回も同じ作業を繰り返すことになる。
 エスパーは従来のRPGと同じく戦闘するだけなので、あまり手がかからない。成長率も高く、能力値は中盤でカンストしてしまうほど優秀。アイテムが4つしか持てないというデメリットはあるものの、終盤まで強力なアタッカーとして活躍できる。
 つまり、にんげんはアイテムを多く持てる代わりに手間がかかる種族である。これほど面倒な性能にするなんて、創造の"かみ"は余程の人間嫌いと推察する。

 ちなみにモンスターのみのパーティも可能だが、武器や装備が一切使えないため鬼の難易度になる。ただし、エンディングにたどり着いたときの達成感は他の種族よりも大きい。これも人間のサガなのかもしれない。

シンプルかつ衝撃的なシナリオ

 『魔界塔士Sa・Ga』には、塔の外にある世界と、塔の中にある世界が存在する。外の世界は現実と同じように平面的なものだが、中の世界は全く異なる。塔の中にある扉に入ると、まるで外の世界のようなフィールドが現れる。たとえば楽園であったり、地獄のようだったりと、何かしらのテーマが設けられている。
 中の世界に共通して言えるのは、強烈な個性があるということ。入るたびに違う色や形を見せてくれる様は、まるで万華鏡のようである。

 中盤以降になると、滑稽な世界から荒廃した世界へと移り変わっていく。過酷なイベントが怒涛のように押し寄せ、負の感情に支配されていく。
 16階の世界は、すざくに怯える東京が舞台。オリジナルバージョンでは「原子力発電所」や「プルトニウム」の表記だったが、現行の移植版では謎の配慮で違う名称にされている。これに関しては納得がいかないので、プレイする際は是非とも脳内補完してほしい。ぼやけたストーリーが鮮明に感じられるはずだ。

 とくにインパクトがあるのは19階の世界であるシェルター。奥にある遺体の手帳から、目を覆いたくなる事実を知る。そして、読み終えたあとアイテム欄にひっそりと追加される「かくばくだん」。このゲームを創った"かみ"は、人でなしである。

 21階の世界である花畑に住む老人も極めて印象深い。
 塔から現れるものに渡せと"かみ"から剣を授かって50年。その仕事を成し終えた老人は、間もなく息を引き取った。これほどシンプルで残酷な物語はあまり記憶にない。"かみ"にとって人間はただの道具に過ぎないことを再認識したイベントだった。

 本作が描いているのは、創造主である"かみ"が人間をおもちゃにしている世界。極めて無慈悲なファンタジーなのだ。

いいところ&気になった点

 いいところは、真っ直ぐすぎるテキスト。
 盗賊が「誰が入っていいと言った!」と叫ぶのに対し、「オレだ!」と一刀両断する主人公。このようにテンポが良く、切れ味がするどいセリフが其処彼処に散りばめられている。

 誤植が多いのも特徴。アイテムが一杯のときのメッセージでは、「もちものが いっぱいだょ!」と謎のキャラクター風な語尾が味わい深い。
 ※現行移植版では修正されているので、オリジナル版のカオスさはかなり薄まっているのが残念。

 気になった点は、ゲーム部分の粗さ。
 ランダムで出現する雑魚の強さがめちゃくちゃ。単体のときもあれば、2種類の複数体パーティで殺意MAXのときもあるなど差が激しすぎる。経験値を獲得するシステムではないため、性質の悪い敵と遭遇してもメリットが少ないのも性質が悪い。

 あとは、アイテムの所持数が少なすぎるところ。にんげんがいても少なく感じるのに、エスパーやモンスターがいると余裕はなくなる。それなのに必須のイベントアイテムがそこそこ多いため、残しておきたいアイテムも泣く泣く処分しなければならなくなる。使わないアイテムは必然的に存在しなくなるため、エリクサー症候群にはなりようがないのは数少ないメリット。(本作のエリクサーはどこの店でも売っているただの回復アイテムなのでややこしい)

まとめ

 『魔界塔士Sa・Ga』は、シンプルかつ残酷なストーリーをむき出しで投げかけてくる実に挑戦的なRPG。だからこそプレイヤーの感情が昂り、心が揺り動かされる。

 もしも、本当に"かみ"が存在するのなら、是非『魔界塔士Sa・Ga』をプレイしていただきたい。そして、エンディングを迎えたとき、どんな感想を抱かれるのか興味はつきない。

 ただ、ひとつだけわかるのは、チェーンソーがこの世から消え去ることだけだ。

PR