TVアニメ『神様になった日』【紹介・レビュー・感想・評価】

2022年4月2日

世界の中心で”I”を叫んだ神様

概要

 2020年10月から全12話で放送されたテレビアニメ。麻枝准が原作・脚本を担当したのは、『Angel Beats!』『Charlotte』につづいて3作目。

あらすじ

 高校最後の夏休みを迎えた成神陽太は、神様を自称する少女ひなと出会う。
 「30日後に世界は終わる」
 突拍子のないひなの予言に陽太は面食う。ひなが持つ不思議な力を目の当たりにした陽太は、次第にひなのことを信じていくようになる。

 そんなこんなで時間は過ぎていき、やがて世界の終わりの日を迎える――。

登場キャラクター

成神 陽太
 主人公の高校3年生。バスケが好きな、ごく普通の高校生。以上。

佐藤 ひな
 自称オーディンを名乗る謎の女の子。不思議な能力を持ち、知っていることが多そうにみえて知らないことは多い。

伊座並 杏子
 陽太の幼馴染で、恋心を寄せている同級生。髪留めが角に見えるが、ラムちゃん的なキャラではない。もちろん雷は出さない。

国宝 阿修羅
 陽太のクラスメイト。名前がすごいが普通にいいやつ。

成神 空
 陽太の妹。赤髪でボーイッシュな印象だが、どちらかといえば控えめな性格。「~し」が口癖。自主制作映画を作っているが、残念ながらセンスはなさそう。だが、それもまた魅力のひとつだし。

成神 時子
 いつの間にやら母親のテンプレとなった「あらあら」系の母。これといった特徴はなく、バブみもそれほど感じられない。

天願 賀子
 有名な弁護士。この作品が創作物(アニメーション)であることを強く認識させられる存在。追及したら負けだと思っている。

どういう人向けか

・Key作品が好き
・感動したい
・悪ノリがあまり苦にならない
・麻雀を知らない

見どころ

・食事の画が綺麗
・メタネタやパロディが多め
・世界の終わりとは何か
・働き者の鈴木少年
・やさしいせかい

レビュー

 本作が描いているのは"奇跡“。
 厳密には二つの奇跡が存在する。

 ひとつめの奇跡は、伊座並の母が遺した"幸せの魔法“。
 最愛の人を亡くして塞ぎこむ人間を説得するのに最も効果的なのは、亡くなった最愛の人だ。どれだけ自分の考えと乖離していても、故人の遺志を尊重するのが人の道である。それは長年現実から目を背け続けた偏屈な男ですら簡単に前を向かせてしまう。
 最愛の人が語る本音を、死後十数年の時を経て知らされる。それは奇跡と呼ぶにふさわしい出来事。

 ふたつめの奇跡は、ロゴス症候群のひなに与えられた全知全能の力
 死に至る先天性の病気を持つひなにとって、当たり前の日常生活を送ることは夢のまた夢だった。短い間とはいえ、ひなは自分のやりたかったことを目いっぱい楽しむことができた。
 しかし、人間の与えた奇跡は、人間によって奪われるのが道理。量子コンピューターを外されたひなは、神の力と同時に健康な体も失ってしまう。
 実の父親が発した奇跡の残酷さ。一瞬の輝きがなくなり、目を覆いたくなる現実を突きつけられる。サナトリウムのくだりで、あえて現実を見せて終わらせている。それが、奇跡の価値と真実の生々しさを強調させている。

 どちらも万人に受け入れられる普遍的なものを扱っている。ポジティブなだけでなく、ネガティブな部分もしっかりと表現されている。アニメだからこそ、負の感情がマイルドになり、奇跡という非現実の事象を素直に受け入れやすい。
 その結果、誰かの心が救われる。将来が漠然としていた陽太にも生きる目的ができた。こうして結ばれた絆もまた、奇跡の産物である。

感想

・空の自主制作映画
 神の力を持つひなと神の力を失ったひなを、一つの作品にしているのがニクい。とにかく空がかわいい(*´꒳`*)

・ひなの父親との会話
 ひなが父親に対して全く興味を示さなかったのが印象深い。明らかに距離を置く父親の姿を見れば当然だろう。父親はひなに対して結論が出ていた。ひなは最後まで父親に対する気持ちが変わらない。一線を引かれた親子の関係は、他人よりもよそよそしく映る。世界の終わりの気配が近づく状況での旅は、あまりに物悲しく、あっさりとしていた。

・世界が終わったあとのひな
 サナトリウムのやりとりは、陽太の行動があまりにも稚拙過ぎて少し冗長的に感じた。それならば、ひなと対になる鈴木少年のことをもっと掘り下げてほしかった。人工的に神の力を与えられたひなと、生まれたときから天才だった央人。最終話のラストで、二人の将来の姿を見せてハッピーエンドの形にしてほしかった。
 事後のひなを見ていると、ふいに"毒電波“という単語が頭をよぎった。これもゼウスの力?

・麻雀回
 本作を語るにおいて、これを触れないわけにはいかない。コメディパートに関してはあえて言及を避けていたが、ひと言だけいわせてもらう。
 だーまえは調子に乗り過ぎた。

評価

☆☆☆★★

 コメディパートとシリアスパートのメリハリが効いている。コメディパートに関しては、ややしつこい印象を受けるが、麻枝准の持ち味なので仕方ない。たとえるなら、どろり濃厚ピーチ味のジュースみたいなものだ。
 ヒロインのひなに関しては、もうちょっと個性がほしかった。衣装と口調に特徴を出してはいるが、空の方がインパクトは強い。あまり強くしすぎると、設定が設定だけに誤った方向で受け取られる可能もあるからやむを得ない。

 全体的に見れば良作という印象。個人的には消化不良な終わり方と麻雀で若干辛めの採点になった。ひなにとって神の力を得たのがよかったのか悪かったのか、なんとも歯がゆい気持ちの幕切れでした。