『負けヒロインが多すぎる!』【レビュー・感想】~アニメノ読ミ物(4)~
『負けヒロインが多すぎる!(以下マケイン)』は、「超ぬるま湯ラブコメ」である。
人気の理由はクオリティの高さ
まずアニメーションのクオリティは、全体を通して非常に高い。作画、OP、EDすべてが高品質。何も考えずにぼけ~っと眺めるだけでも楽しめてしまう。それだけでも観る価値はあるだろう。
OPでは弾けまくりの強烈なポップさが押し寄せ、本編前に勢いをつけてくれる。忙しない映像の切り替えは、本編の内容とリンクしていて世界観の構築に一役買っている。やはりOPが作品と融合しているのは嬉しい。
コミカルな演技の多さも飽きさせない理由のひとつ。とくに八奈見の変顔に代表される"目で楽しむコメディ"のインパクトが、SNSの拡散に繋がった。
個人的にはEDがお気に入り。選曲、映像ともにセンスが抜群で、マケインの本質を凝縮している。これだけで勝ったと思わせてくれる空気を感じられた。何と戦っているのかはわからないが。
登場人物は個性のかたまり(主人公をのぞく)
とにかくサブキャラクターのクセがすごい。
先生や生徒会など地位が高ければ高いほど、まともな人間が減っていく。そんな愉快でイカれた環境の下、スクールライフは展開する。
先生は担任の甘夏と保健の小抜しか登場しない。ただし、この二人は非常識を絵に描いたような性格なので救いようがない。
生徒会はそれに輪をかけて強烈。
露骨なエロ担当である生徒会書記の志喜屋は、何の脈絡もなく現れては尺を食い散らかすジョーカー的存在。その使い勝手の良さから、制作やSNSに大人気なのは疑いようもない事実。
生徒会長はヤバいオーラてんこ盛りなのに、出番がほとんどないという悲しきオチ。いじってオーラが強すぎて逆にいじってもらえないタイプなのかもしれない。たしかに触れるとヤケド(しかも触れた方が大損)しそうな匂いはぷんぷんする。
妹の佳樹は完全無欠過ぎる故、あえて語る必要もあるまい。しかし、勝ち組の主人公に必要だったかは疑問符がつく。最終的にフラれるならまだしも、あの終わり方だと疑問符は肥大し続ける。
恋愛のもつれは傍観
ヒロインは全員失恋している。
ストーリーは主にヒロインたちの失恋を描いており、主人公である温水の失恋ではない。
そう、あくまで他人事なのだ。
だからこそ、「可哀想」とか、「しんどいな」といった客観的な立場で"失恋を楽しむ"ことができる。"錯覚できる"と言い替えた方が適当かもしれない。
温水は、失恋したフリーなヒロインを優しく慰めるだけ。嗚呼、素晴らしき哉、主人公。いいとこどりにも程がある。
1ミリも驚きのないストーリー
ヒロインたちがフラれた相手との話を蒸し返すだけなので、結論は始めから分かっている。
起承転結の承しかない内容であり、起も最初の数分のみ。
最初から最後まで承で駆け抜けるストーリーは、起伏のない直線道路をひたすらドライブするようなもの。蚊帳の外を貫く温水は、おいしいところだけしっかり持っていく。
都合がよすぎるマケインたち
フリーが確定しているヒロインたちは、温水にとって理想のヒロインである。
勝手に話を進めてくれる八奈見。
度重なるラッキースケベでも嫌悪感を抱かない焼塩。
守ってやりたくなる存在の小鞠。
彼女らは自分の意思で温水と仲良ってくれる。自分のことを嫌っていない可愛い女子たちに囲まれる学園生活など、地上の楽園と言わずに何と呼ぶのか。
登場するヒロインが"負けヒロイン"なら、温水は完全なる"勝ちヒーロー"である。何と戦っているのかはわからないが。
気になった点
自分からは一切動かない主人公の温水。ラノベにリアリティを求めるのは無粋だが、せめて最初の一歩ぐらいは自分からアクションを起こしてほしかった。ぬるま湯にも程がある!
ほとんど(妹以外は)女子と会話をしていなかったはずなのに、自然と会話ができる温水。ラノベにご都合主義はつきものだが、せめて彼の魅力の一端でも垣間見れたらよかった。魅力が主人公補正のみは、少し乱暴すぎやしないか。
まとめ
ラノベらしく「楽して気持ちよくなりたい」に全力で応えてくれる作品。精神的に疲れている、嫌なことがあった、イライラしているなどの症状に効果的。
私はこの先、何度もED「八奈見Ver.(LOVE2000)」を観ることでしょう。
愛はどこからかやってきてくれるもの。この作品に相応しい名曲です。染みるぜ。
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