『サラダの国のトマト姫』【感想・雑記】~ゲームノ読ミ物(4)~

2024年6月16日

 『サラダの国のトマト姫(以下サラトマ)』は、絵と文章を楽しみながらプレイするグラフィックアドベンチャーゲームである。登場キャラクターのほとんどが野菜や果物という独特な設定の物語。柔らかいタッチの絵に、笑いとシリアスを組み合わせたおとぎ話のようなストーリーが展開される。
 サラトマは複数のプラットフォームにて発売されているが、今回はファミコン版を掘り下げていきたい。

サラダの国のキャラクター

 サラダの国に登場するのは、主に擬人化した野菜と果物。彼らは人間のように地上を二足歩行しているが、時に埋められている場面にも遭遇する。現実の野菜と同じように地面に根を張り、栄養を摂取しているのかと思ったらそうではない。彼らは捕らえられて埋められただけなのだ。この狙っているのか分からない独特のおかしさが、得も言われぬ空気を生み出している。
 つまり、ヤサイたちの生活環境は人間とほぼ同じである。サラダロアの町にいるタイナの子供はおべんとうを食べるし、ニンニクはタバコを吸う。酒屋や薬局はあるし、キャバレーだってある。ほぼ人間化しているが、ときおり植物になるご都合主義な展開もまたサラトマの醍醐味。

 どのキャラクターも頭がヤサイなので、ファーストインパクトが強い。特にイベントのない電気屋のクリでさえも、忘れられない個性がある。それはコミカルな印象を与えるだけでなく、サラトマの世界観を形作る上で欠かせない要素なのだ。

キュウリ戦士

 サラトマの主人公。プレイヤーの分身であり、その容姿や行動を客観的に見ることは少ない。戦闘が“じゃんけんバトル”という謎仕様のせいで、見せ場であるはずの戦闘を柿っ八に奪われてしまう。剣を持ったパッケージの勇ましさは影も形もなく、きれいな人を褒めたり、見境なく叩いたりする身勝手な乱暴者になり果てている業の深い男である。

柿っ八

 本作を語る上で欠かせない存在。専用の"かきっぱちコマンド"があることでも、その重要度がわかる。まだ仲間になっていない状態でも"かきっぱちコマンド"は使用可能で、「このコマンドは何でしょうね?」とすっとぼけて返す天の声がかわいい

 失敗を繰り返す"高位のドジっ子属性"を持つ柿っ八だが、実はかなり有能だったりする。その最たるものが、エリア終了時の物を"うっかり落とす"行為だ。
 アイテムには必要なものと不要なものがあり、どれが必要かは判断がつかない。その整理をしてくれるのが、何を隠そう柿っ八である。実は自分のドジを装いながら不要なアイテムを排除していたのだ。無能な振りをしてさりげなくキュウリ戦士をサポートする。まさに部下の鑑ではないか。そのかわりガチのやらかしもあるので、手放しに有能とは言い難い絶妙なバランスがよりキャラクターの魅力を引き立たせている。

 そして、忘れてならないのが戦闘要員としての活躍。柿っ八にはじゃんけん名人という設定があり、そのことからあっちむいてホイの相手役に抜擢されているのだ。これは、説明書に記載しているだけで、ゲーム内では言及していない。説明書を読まないユーザーが違和感を感じるのは当然のことである。

動物

 容量や処理の問題があるため、イベントが一枚絵で進行するのはファミコンの宿命。そんな紙芝居にちょっとしたアクションで楽しませてくれるのが、ヤサイをモチーフにした動物たち。
 サクランボドリ、サンサイドリ、オクトベリーの3種類がいて、発見するとそこに何かがあることを示唆する存在でもある。
 出現しただけでほんわかした空気を醸成し、ちょっぴり幸せな気持ちになれる。この動物たちもまたサラトマには欠かせない。

サブキャラクター

 サラダロアの町にある酒屋のフサ子さんは、紫色の肌を除くとノーミン族に見間違うほどヤサイらしくないキャラ。煙草を片手に京都弁を喋り、褒められると饒舌になったりする生々しさが印象深い。他のキャラにはない瞬きのアクションがあるなど、謎の優遇対応がとられている。制作スタッフの並々ならぬ愛を感じるが、その理由は定かではない。

 オニオン王の娘のアップルリサは、普通の人間にしか見えない。オニオン王とノーミン族の混血と思われるが、ヤサイ要素は皆無。アップルリサという名前なのにアップル要素も皆無。ヤサイは遺伝が弱いのかといえばそうでもなく、カボチャやタイナなどは親子で瓜二つ。運よくノーミン族の血を強く受け継いだおかげで美人キャラになったが、もしもオニオン王の血が強かったら、玉ねぎ頭のメタネタキャラにされていた可能性は高い。ちゃんと部屋もあるし。

 余談だが、私のお気に入りはロンメロン将軍。一枚絵がドンと構えているのではなく、見事なまでのナナメっぷりを披露してくれる。これほどナナメでこの佇まいは、将軍クラスでなければあり得ない。締まりのない顔は、おそらく頭痛が完全に治ってないからだと思う(思いたい)。

敵キャラクター

 奉行所のトウガラシは、普段は青いのに激昂すると赤くなる。香港映画に出てきそうな悪人面がたまらない。
 ヒゲとサングラスが印象的なナスの兵隊。あっちむいてホイで上しか向かず、上司の顔色ばかり窺っていることがわかる。戦いに敗れると、めちゃめちゃ腰が低くなる変わり身の早さも性格が出ていておもしろい。フサ子さん同様、なぜかナスは設定が細かく作り込まれたキャラが多い。

 モンスターはさらに粒ぞろい。
 ドレッシングかいじゅうサラダロンは、体がドレッシングのビンで、手がナイフとフォークになっている斬新なデザイン。ヤサイにとってこれほど露骨な脅威はいないだろう。
 ヤマタノバナナは、その名の通りバナナ版ヤマタノオロチ。手がないためじゃんけんができないと、いきなり真っ当なことを言い出す天の声に唖然とする。ヤサイが二足歩行で人間の言葉を喋れる世界観なのに、そのツッコミはさすがに無粋すぎるのではないか。その理屈なら他のモンスターだってジャンケンはできないはずだ。
 これ以上は批判になってしまうので、じゃんけんに関してはあまり邪険に扱いたくはない。

 カボチャ大王は、本名がパンプキング・ド・アバレル。名前の割にはすごく堂々として落ちついている。負けるとゲームオーバーになる唯一の敵でもある(他の敵は負けてもゲームオーバーにはならない)。息子はパンプキング・ド・ブンナグというこちらも荒々しい名前だが、実際は自身がタイナにぶん殴られるというオチがある。

サラダの国のユーモア

ノーマルギャグ

 サラトマのやわらかな世界観を生み出している要素のひとつがギャグである。全編を通して散りばめられている珠玉(?)のギャグが、プレイヤーの肩の力をフッと抜いてくれる。笑いは大事。

 たとえば、パセリの森の柵をたたけば、「さく、さく、変な音がします」と返される。くだらない。実にくだらない。
 レジスタンス基地では、ツタをしらべると「ピンチヒツタというツタです」。急に野球ネタ。これもまたくだらない。

 ところが、終盤になるとギャグは高度になっていく。
 カボチャ城の風呂場にいるオレンジ(女性)に対して"かう"を選択すると、「ひんしゅくをかいました」。
 カボチャックの町のよろず屋に入ると白い歯を見せて笑うカボチャの店員がひとり。店内を順にしらべていくと、
 まど⇒「あいています」
 てんいんのくち⇒「あいています」
 レジ⇒「しまっています」

 見事な3段オチ。なかなかやりおる。

 最後に「なんでやねん!」とツッコミを入れたくなるシーンを紹介。
 柿っ八がカボチャ城の中庭の池に落ちて、さあ大変という状況。キュウリ戦士は助けに向かうわけだが、ここでたたくを選択すると叩かれた柿っ八が溺れそうになってしまう。頭を叩けるぐらい接近できるなら助けろよキュウリィ……。

メタネタ

 メタネタとは、端的にいえば劇中のキャラが知るはずのない現実のネタを使うこと。1988年当時のリアルではあるものの、メジャーなネタが多く、現代でも通用するネタがそこそこある。

 「せんしはバートをたたいた。バートは13ポイントのダメージをうけた。」
  サラダロアの町の古道具屋にいる店員のバートをたたいた時のメッセージ。当時一大ブームを巻き起こしたドラゴンクエストのパロディ。3か月前に発売されたドラクエ3の影響は確実にあるだろう。

 「このタイナの口、たかはし名人の口にそっくりだ」
  口元がしゃくれているタイナを見た柿っ八がひと言。当時ハドソンといえば、高橋名人。子供に大人気だったんです。ハドソン無き今でも現役バリバリなのはスゴイ。ちなみに髪もありました。

 「この国にゆうしゃが出てきた時ダイコーンというモビルヤサイスーツがあらわれる」
  ダイターンとガンダムを同時に盛り込んでいるところをみると、スタッフに富野作品好きがいるのは間違いなさそう。
  さらにモビルヤサイスーツとの戦闘前、「柿っ八、いきまーす!」と叫ぶ柿っ八。どう考えても彼はオールドタイプだが、そこは触れないでおく。

「こわいですねえ…つよそうですねえ…ではしあいのあと、
 またお会いしましょうね。さよならサヨナラさよら。」

 映画解説の大家である淀川長治氏をパロディにしたもの。当時はアニメや漫画でもよく見かけた鉄板ネタで、あの名調子は、老若男女問わず誰もが知っていた。TVアニメのキン肉マンでアデランスの中野さんが毎週のように真似していたのは記憶に新しい。

 カボチャの兵士「トームとシェリー」
 カボチャックの町にいるコンビ「マイシェルとシャクソン」
 前者はトムとジェリー、後者はマイケル・ジャクソンの名前をもじっている。名前だけではあるが、思いつきで付けられるよりは印象に残りやすい。こういった一見どうでもよさそうなところにこそセンスが問われる。この2組に関しては、すぐにパロディだとわかるネーミングなので、チョイスは的確だったと思う。

ガチでヤバいやつ

 コメディ要素の多いサラトマだが、コミュニケーションが取れない危険人物も存在する。
 それは、カボチャ大王を倒した直後のシーンで登場するにんじん。
 「デュ―、デュー、デューン。わたしバカなの」
 死闘を終えた直後に不意打ちを食らわせる刺客のような存在。まるでマヌーサとメダパニを同時に受けてしまったような気分に陥る。何度話しかけても同じ言葉しか発しないため、ただの恐怖体験でしかない。にんじん最恐説がまことしやかに囁かれたらしい(?)。

まとめ

 絵本のような不思議な世界観に、コメディ要素がてんこ盛りのカラフルなサラダ。栄養は少ないが忘れた頃にまた食べたくなるクセになる味。
 もし、プレイしてみたくなったのであれば、一度ご賞味あれ。

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