劇場版アニメ『楽園追放-Expelled from Paradise-』【紹介・レビュー・感想・評価】

概要

 2014年11月15日に公開された劇場版アニメ。東映アニメーションとニトロプラスによる合作のフルCG作品。監督は水島精二、脚本は虚淵玄。

あらすじ

 西暦2040年。地球はナノハザードで汚染され、人類の多くが電脳世界ディーヴァに移り住んでいた。多発する地上世界からのハッキングに対し、捜査官のアンジェラは地上世界へと降り立つ。地上の調査員ディンゴとの合流を果たし、ハッキングを仕掛けた人物の捜索を開始する。

どういう人向けか

・SF好き
・美少女キャラが暴れ回る作品が好き
・やたら名言を吐くおじさんが好き
・ロボットアニメが好き
・お尻が好き

※以下、ネタバレを含みます

レビュー

「姿形が変わっても”かわらないもの”」

 本作における電脳世界は現代のメタバースとは異なる。人間そのものがデータ化され、電脳世界ディーヴァの管理下に置かれている。地球がナノハザードで汚染されており、わずか2%の人だけが生身の体で暮らしている。この数十年におけるデジタル技術の飛躍的な向上によって、人間がデータ化された世界にも一定の説得力がある。
 生身の人間に戻るプロセスを省略せずに描いたことで、物語のリアリティと没入感を高めている。逆に生身からデータへの移行時に発生する後処理の生々しさも理に適っている。

 物語の中で重きを置いているのが登場人物の価値観。
 ディンゴは荒廃した地上世界で生きるために仕事をし、アンジェラは電脳世界で多くのメモリを得て暮らしを快適にするため働いている。生身でもデータでも生活水準の向上を目指すのは変わらない。データ化されれば食欲や性欲はなくなりそうだが、開始早々ジュースを飲むアンジェラがナンパされているので食欲と性欲も再現はされている。
 地上世界で暮らすディンゴは生身の人間で、とくに音楽などの趣味に興じる。人間臭さが強く、合理的なアンジェラとは相容れない。
 そして、フロンティアセッターは自立型AIが自我を持った稀有な存在。人間たちとの交流を通じて音楽などの娯楽を理解できるようになった。
 生身の人間と生身とデータを行き来する人間、そして自我を得た自立型AI。その三者には強い仲間意識が芽生えていた。その見えない繋がりを表す言葉が"仁義"である。

 仁義とは儒教道徳の理念で義理や礼節をのことを指す。ディンゴの生き方はまさしく仁義を貫くものであり、アンジェラとフロンティアセッターにも次第に伝染していく。
 三者には元々人間としてのベースが根底にある。お互いが相手の考えを理解しようとしたことで絆が生まれていく。アンジェラがディーヴァに異を唱えたのも、私欲より仁義に走ったまでのこと。
 最終的にフロンティアセッターは外宇宙への航海へ旅立ち、アンジェラはディンゴと共に地上世界での生活を選んだ。その別れに後悔はない。学生時代の仲間同士が卒業でそれぞれの道を歩き出すのと同じ。ただ、そのスケールが少し大きすぎただけ。

 もしも電脳世界へ完全に移行できたとしたら、もしもAIに自我が生まれたら、もしも地上世界が人間の住めない世界になってしまったら。いくつものifを束ねた一つの未来。どんな時代が訪れようとも、人間の本質は変わらない。

感想

 電脳世界と地上世界との関係性や移行の分かりやすさは好印象。ただし、地上世界に降り立ったアンジェラがあの恰好のままうろつくのは無理があった。いくらネットのアクセスを切っても見た目ですぐにバレるでしょ。
 安易に敵を作らなかったところも面白い。目下の敵とされていたフロンティアセッターは害を為す存在ではなかった。最終的に裏切る形となったディーヴァが敵かといえば一概にそうとも言いきれない。最初から敵などおらず、それぞれの思惑が交錯した結果、たまたま衝突した形になった。
 ディーヴァはただ不正アクセスをしたクラッカーを取り締まろうとしただけで己の正義を貫いただけ。フロンティアセッターもほぼ全人類が移行した電脳世界へ呼びかける以外に選択肢はなかった。

 映像に関してはフルCGによる描写がかなり頑張っている。CG特有の"灰汁取り"が入念に行われていて、とくにアンジェラの表情にはこだわりを感じられた。
 戦闘シーンはかなりスピーディーで激しいアクションを見せてくれる。ミサイルの軌道がやけにド派手だと思っていたが、スタッフロールに板野一郎の名前を見つけて納得した。ただし、CGだと手描きに比べて抑揚が無くなるせいか忙しない印象だけが強く残った。

 アンジェラがフロンティアセッターの誘いを断るきっかけとなったのは、上空で見た緑豊かな地球。地上世界は自分のルーツであると同時に未知の世界でもあった。彼女にとってのフロンティアは、すでに目の前に広がっていたのだ。
 電脳世界という思い切った設定を生かしながら、結末の印象は実に爽やか。ボーイミーツガールならぬオッサンミーツガールの模範になる良作でした。

 最後にひとつ気になったのは寿命についての言及がなかったこと。電脳世界では物質的な事故はもちろん老化や病気も存在しない。おそらくテーマと衝突するからあえて触れなかったのだろう。もしも続編が作られるなら、生と死についても描いてほしい。

評価

☆☆☆☆★

 設定はかなり綿密に練り上げられているが、内容はいたってシンプルに仕上がっている。テーマに絞って描いているため、蛇足がなく世界観も一見でスッと入ってくる。登場人物も最低限に抑えており、メインのキャラクターたちを一貫して注目し続けられる点も高評価にした理由のひとつ。
 原作のニトロプラスを知っていればクオリティの高さは言うまでもないが、知らない視聴者には強いインパクトを残すかもしれない。知らない人の方が多いと思うので、時間があれば一度は観ていただきたい。

 余談だが、スタッフロールを見るまで端役の豪華キャスト陣に気づかなかった。こういう遊び心こそエンターテイメントの大事な部分であり、基本ではないかと感じた。

アニメ,映画

Posted by しよう